『はとり君へ.mp3』
柊・はとり 2020年2月27日
ええと……なんて言ったらいいのかな。久しぶり。
箱音だよ。はとり君、生きてる?
生き返ってなかったら私、無駄死にだね。あはは。
……ちょっと疲れちゃった。あのね、私、死ぬことにしました。
君は何度も私を守ってくれたのに、ごめんね。
はとり君が死んでから色々あったの。
もうすごく色々。まずね、君が死んじゃったあの事件は解決してません。警察が捜査してくれてたんだけど、すっごい嵐が吹いてきて、なんかもうそれ所じゃなくなっちゃったんだ。
はとり君も、ここから出たらきっとびっくりすると思う。
なんと……世界滅んじゃってます。たぶん、君の思ってる以上に。
ゾンビとか、変な機械とか、変な人がいっぱい歩いてるから、できるだけ避けて、気をつけて白雪坂まで行ってください。
もし途中で襲われて戦うことになっても、私の首だけは絶対なくさないようにね。
戦い方はこの『コキュートス』が教えてくれるはずだよ。……そう契約させたから。
はとり君がいなくても頑張らなきゃって思って、なんとかここまで戦ってきたけど、もうみんな限界が来てるの。……私も。
やっぱり『ワトソン』だけじゃ、事件を解決できないんだよ。
だから私、ここまで来れたよ。身体中痛くて、もう死んじゃいそうだけど……どんな難事件でも、『白雪坂のホームズ』ならきっと解決してくれるから。
私は探偵助手ですから!
私にできることはもう、これしかないよ。
……私が死んだら、『コキュートス』がはとり君の骨と私の死体を合成して、『名探偵』を生き返らせてくれるって。
もう私も何言ってるのか意味わかんないけど、この子って『そういう子』なんだ。だからほんとうだって信じて、私は死ぬよ。ううん、はとり君と一緒に生きる。……生きられたらいいなあ。
それでね、動力装置が必要みたいなんだけど、もうスマホぐらいしか持ってなくてごめん……でも、探偵メモとかいっぱい入ってたと思うし、君の頭の代わりに……なるんじゃないかな! うん、なる! 伊達に君にストーカーって言われてたわけじゃないからね!
……あ、そうだ、はとり君の首。結局見つかんなかったんだって。
犯人、どこに隠したんだろう……犯人もきっと嵐に巻き込まれて死んじゃったよね。……やだな、悔しい。
はは……なにも解決してないんだよ、あの事件。しょうがないけど。しょうがないけど……。
……はとり君、もし犯人の顔見てたら、絶対自分で捕まえてね!
……さてと。
言うことは言ったし、死ぬね。ほんとに。
……怖いなあ。嫌だよ。ものすごく怖い。死ぬってわかってて死ぬのと、いきなり殺されるのって、どっちがつらくて怖いんだろう。
……ごめんね。比べちゃったら、はとり君怒るよね。
この『オブリビオン・ストーム』を起こした犯人を見つけて、すべての被害者のみんなを、助けよう。
大丈夫。
『白雪坂のホームズとワトソン』が揃えば、どんな難事件だって解決できるよ!
…………じゃあ。
あとわからないことは『コキュートス』に聞いてね。
……………………。
……こほん。最後にもうひとつだけ。
生きてた頃は、いつか言えばいいって、思ってたんだ。
はとり君、大好きだよ!
※ ※ ※
(偽神兵器『コキュートス』の内蔵メモリに記録されていた音声データより)
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