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戦闘訓練 結果3

八幡・茜 2019年8月30日

 遠くの方から奇声が聞こえてくる。
「走り去った木人さん、一体何が……」
 奇声を上げる物体。つまりはを上げながら走り去っていった木人について、掻巻・褥は口元に手を当てつつ何が起こったのかと考えてみるも真相は暗闇の中だ。
 或いは木人たちの横で笑みを浮かべる狐に問うてみれば、怪談めいた回答を得られたかもしれない。
「それにしても」
 とはいえ、褥としては木人の真相よりも気になることがある。それは、『伸びる手足または顔で攻撃する』という木人の攻撃方法だ。
「滅茶苦茶気になるわね」
 一体どのように伸ばしてくるのか? 伸ばすだけで攻撃と言えるのか? 考えれば考えるほどに、気になって仕方がない。
 そして一度気になり始めると、どうしても確かめたくなる。それが人情と言うものだし、神たる褥にしても……むしろ神の方がそういった厄介ごとに首を突っ込んでいくものだ。
「喰らってみればわかるわね」
 木人を眺めながら暫く考えていた褥が、そんなことを良いながら小さく両手を叩けば、どこからともなく屈強な男どもが駆けつけてくる。
 駆けつけてきた男たちに、来てくれてありがとうなんて銀色の瞳を細めて見せれば、男たちは姉さんのためなら何でもしやすぜ! なんて鼻の下を伸ばし、
「皆、私は木人さんの『顔』伸び攻撃を喰らうのへ集中するから、貴方達は私の代わりに反撃して頂戴!」
 そんな男たちに満足そうな笑みを浮かべた褥が、対象たる木人をビシィ! と示せば、うおおお! なんて盛り上がる。いささか可笑しいことを言っている気がするが、男たちは細かいことは気にしないようだ。
「さぁ、木人さん。ここに食べごろな人妻が居るわよ」
 男たちが一斉に木人に向かって駆けていく中、その攻撃を自分に向けるべく褥がクイックイッと木人を挑発して見せる。
 挑発された木人はガクガクと震え出したかと思うと――その顔が一瞬のうちに褥の目の前まで伸びてくる。
 そして口に当たる部分に大きな……小柄な褥の頭を丸のみに出来るくらいの穴が開いたかと思うと、その穴の中に螺旋状に生えたギザギザな歯が見えた。
 サメも真っ青なギザギザ具合の歯を目の当たりにした褥は、思わず身をかがめ。その頭上を木人の頭が通過してゆく。
 通過した顔の行く先を確認する間もなく、次の瞬間には木人の顔は元の位置に戻っており、身をかがめた褥の目の前に再び顔を伸ばしてくる。
 今度こそは褥を頭から丸のみにしようとする木人の顔だが、
「あらあら、そんなに私を食べたいのかしら?」
 悪戯をする子供を諭すように。あるいは、若さに任せて勢いだけの告白をしてくる男子を軽くいなすように。褥は、木人の頬を両手で挟み込んでその顔を受け止める。
 伸ばした顔を受け止めたられた木人は顔を胴体に戻そうとじたばたともがくも――その隙に木人の胴体にたどり着いた男たちが、姉さんに何するんじゃわりゃぁ! と殴り掛かりれば、パーンッと軽快な音を立てて爆発したのだった。




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