【継承】side:ヴィクティム
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月23日
帰るんだ
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ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月23日
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ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月23日
37回死んで検証を行った。
結論は変わらなかったが、ルールと傾向は固まってきたように思える。
ルール①人は変わらない。人の「設定」は変わる。
名前、職業、背景、パーソナリティはその都度変化している。
言うなれば、役が変わるという感覚だろうか。
ルール②俺と『奴」は①に当てはまらない。
つまり役が変わっても、記憶を保持し続けられている。
これは恐らくだが、「反逆」を片方ずつ抱えている影響か。、
ルール③一定の時が経つと世界は滅亡に向かう。
これまでのパターンでは災害、戦争、疫病の蔓延、人災など。
とにかく、平和に終わることはない。人は死滅する。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月23日
つまり、ここは箱庭と言える。
人を集めて、その営みを観察し、最後にどう滅ぼすか。
観察、そして研究……そういう名目の可能性が高い。
シミュレーションだ。俺達はそれに付き合わされている。
死んでも蘇っていることと、死ぬ度に肉体の状態が戻っていることから、恐らく俺達は精神体のような状態である考えられる。
本来の肉体をどこかに閉じ込めて、抽出した精神をキャストとして箱庭を構築、様々なシチュエーションを作り上げている。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月23日
現状の情報で想像し得る、現状への予測がこうだ。
ここから情報の確度を高めるため、俺は今使えるユーベルコードとサイバーデッキを使うことにする。
派手な動きで勘付かれるのは避けたいので、慎重にだ。
具体的には、「世界に対するハッキングを」を行い続けることで、この箱庭世界に穴を開けに行く。この状況に黒幕が居るのであれば、そこに辿り着ける可能性がある。
開けた穴から、細くてもいいから式神との繋がりを回復できればあるいは……とわに状況を伝えられる可能性もある。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月23日
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ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
脱獄しようって気分だ。
少しずつ少しずつ、箱庭を構成する壁に穴を掘り続ける。
黒幕が居るとして、恐らく俺と奴の存在はイレギュラーなはずだ。
設定を変えても記憶を保持し続けられる、言わば特異点のような存在に目を付けるようになっては不味い。
そして力の受け渡しも、すぐには出来ない。
「反逆」の片割れを喪った場合、俺も無力なキャストに成り下がる可能性がある。此処から脱出するにしても、事を成してから脱出までは大急ぎで行う必要がある。少なくとも、次の設定が開始するまでに。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
今、向こうではどれだけ時間が経過してる?
こっちはもう数えた限りじゃ100年なんて優に越す勢いだ。
願わくば時間の流れが独立していればいいが………。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
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ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
……もしやと思ったが、なるほどな。
この事態を仕掛けた黒幕と、俺は同系統だ。
『世界の理にハッキング』を仕掛ける技術を持っている。
だからこそ、この箱庭には情報が詰まっている。
言うなれば此処は奴が作った独立サーバーのようなものだからだ。
亀の歩みのようなものだが、慎重にハッキングすれば情報を取れる。
…まだ、俺は帰る気でいるぞ。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
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ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
幾度も周期を跨いで、なんとか取れそうな情報を得られた。
1.やはりここは人間を実験台にしたシミュレーション用の箱庭である
2.シミュレーションの目的は、クロノヴェーダ(敵の名前らしい)が
切り離した土地と歴史を統治するにあたって必要な人類の管理、及び
殲滅方法を研究するため。
3.肉体から分離した精神で実験を行う為、何度殺しても再利用可能。
肉体が死ぬと精神も二度とは復元できないので実験台は慎重に運用
4.箱庭の管理、そして分離した肉体と精神の管理は、此処の管理者で
あるクロノヴェーダの権限でのみ行える
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
便宜上、この管理者クロノヴェーダをワールドシミュレーターと呼称するが……こいつの管理者権限をアカウントに見立てて、ハックして奪うことが出来れば帰還の目がある。
だがそれをやるには、俺の力だけでは恐らく足りない。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
外部からの支援でもあればあるいは。
だが当ては一人しか居ない。その一人もこの状況では…。
式神との接続も実質的に無いようなものだ。
あるいは何か。
それこそ今ここまで導いて来た『縁』のようなものがあれば。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
思えば、随分とこれに救われている。
いや、これだけではない。腕もそうだし、手掛けたもの全部そうだ。
来る日も来る日もメンテナンスして、手が入ってないものの方が珍しいくらいだ。
………独りきり。なんとか抗っていると、こうして思い出す。
どれだけ命を、救われているのだろう。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
まだ諦められない。生きて帰る為に。
この箱庭に開けた境界の穴から、呼びかけるように発する。
どうかそこに、再び繋がってくれと。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
……………?
(サイバーデッキにアラート)
(身元不明の接続先)
(端末同士で、双方向で通信するような……限定的なP2Pとも言える現象。まさか)
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
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ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
作戦概要は伝えた。
上手くやることを祈って、行動を開始する。
フェーズ①──ターゲットへ接触し、渡すべきを渡す。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
接触そのものは、既に何回か行っている。
が……その度に外見には結構手を加えてやってきた。
奴は俺と同じように、ここで記憶を保持出来る存在だ。
顔を知ってるなると、反応次第ではワールドシミュレーターに気付かれる可能性がある。渡す前に排除は避けたい。リスクを下げるために今回も一応同じようにする。
だから…そうだな。ちょっと髪を長くした外見で貼り付ける。
テクスチャを上書きするような感覚だ。
……ちょっと老けたような感じか。まぁ、悪くない。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
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ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
金髪にタトゥーに…日本人にしては随分派手な見た目だ。
物腰は穏やか、好青年って具合だ。
偶然の出会いを装って声をかけて、と。
記憶を保持できるこいつには、できるだけ多くのことを授けておきたい。戦いのためのスキル、サバイバルスキル。
これから苦難の道が続くだろう。戦う術が必要だろう。
世界の敵を相手取るには、いくらあっても足りはしないから。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
どことなく、セオドアに似ている気がする。
懐かしい気持ちだ。
もっとゆっくり、ちゃんと話したい。
色々なことを教えてやりたいが……時間はあまりかけていられない。
こいつにとってこの一時は、きっと刹那だ。
俺が脱出できたとしても、この箱庭は暫く続くだろう。
だが楔は撃つ。そして、完全な「反逆」が完成する。
その時になったら、此処を出られるようになるはずだ。
本当は今出してやりたいが、そこまでの余力がない。
耐えられることを、祈ってる。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
遠い世界の、知らない奴に。
ただ託すために、知恵を絞って、苦しんだ。
俺だけじゃない。あいつもだ。
こんなほんの一瞬のためにだ。
良く付き合ってくれたもんだ。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
「じゃ、またいつか」
気さくなあいさつ程度の、軽い握手に。
己の片割れを込めて。
在るべきものを、在るべきところへ。
分かたれたものを、一つに戻すために。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
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ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
「………おっし」
別れてから数時間後の、星明りが満ちる夜。
人の気配の無い街の跡の中心で、"それ"を待つ
さっきからずっと、これ見よがしに。
これまでの慎重なハッキングが嘘のような、挑発するような攻撃を箱庭の境界防壁に仕掛けていた。
これでこちらを認知しただろう。奇妙な能力を使い妨害を行うバグ──特異点であると。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
ズズ──何も無い空間から、湧き出るように何かが生じる。
軟体生物のようなそれは、緩やかな人型を形成しやがて───常人よりも巨大な、浮遊する人型の怪物へと変貌した。
あれがワールドシミュレーター…今回はシミュレーション内のバグを取り除くために、ゲームマスター用のアバターを使って入ってきたといった具合か。
「人間……お前は何者か」
「その特異なる能力…興味深い。解析させてもらうぞ」
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
防壁を荒らされたことには怒りは抱いてないらしい。
むしろ興味が勝ったか…自分が負けるとは微塵も思ってないみたいだ。
「解析する時間なんて無いんじゃねーのかな…まぁいいさ」
まぁ、実際勝てはしない。ここで倒せないし、箱庭からの解放もさせてやれない。そこの勝負は諦めた。
生き残り、布石を打つ。これだけ達成できればいいんだ。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
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ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
ヒュッ──シュンッ───ゴウッ!!!
「死」が何度も俺を掠めている。
この箱庭内は奴の領域で、ゲームマスターが好き放題できる。
何も無い空中から無制限にオブジェクトを発生させるのは息を吸うよりも簡単で、さっきから何度も何度も何度も何度も。
致命的な殺傷能力を秘めた物体や自然現象がひっきりなしだ。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
対してこちらは、弱体化された論理防壁と身体ブースト。
そしてカウンターハックによる、現象の消去で防御するしかない。
廃墟群をパルクールの要領で飛び回って振り切ろうとしているが、どう足掻いても手が追いつかない。
野郎はまだ本気を出していない。言った通り、「解析」のためにこちらの力を出させようとしているからだ。
「っぶねえなぁ!?」
目の前をギロチンがストン!!と通過した。あと一歩でスライスだ。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
主目的である管理者権限の奪取には、今奴が使っているゲームマスター用のアバターをハックし、そこから奴自身に手を伸ばしてやる必要がある。
だが、遠隔ハックでは無理だ。今の処理能力では到底火力が足りない。
手は一つしかない───ハッカーお得意の有線接続によるジャック・イン。より具体的に言えば、この義腕型サイバーデッキを直接身体にぶち込む。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
勝負は一瞬───物量攻撃の濃度を上げようとした瞬間。
さらに強い力を籠めるための一瞬の「溜め」を見逃さなかった。
逃げていた己の脚が反転……距離を詰めに行く!
飛んでくる槍の腹をかちあげながら滑り込むように走り、焔の乱流は真正面から飛び込んで、瞬間的に幾層の論理防壁を展開しながら通り抜ける!
「殺った───!!」
サイバーデッキをそのアバターに突き出して────
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
ワールドシミュレーターのアバター。その腕が。
鋭い杭のように変形して、俺を凄まじいスピードで突き刺していた。
「蓋を開けてみれば取るに足らない能力か」
「少し本気を出せばこの程度……」
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
「………これでもう逃げられねえ」
片腕が、確りとその杭のような腕を掴んでいた。
胸を刺し貫くはずのそれは────男の胸元寸前で止まっている。
空いた片方の義腕を、振り翳す。
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
「お前には知らないだろうな」
「人様護って助けるのがお得意の」
ㅤ、、、、
「オカルトだよ」
霊符が、穂先に抉られながらもその威を止めていた────
ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
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ヴィクティム・ウィンターミュート 2024年8月24日
有線ハッキング開始。
アバター操作権限を獲得。
シミュレーション・ワールドの操作権限を獲得。
各演算能力を統合。生体ハッキングを開始。
………………………………管理者権限をArseneに移行。