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【設定資料】暁の灯火―ある研究者の独白【SS】

ファロ・トゥエルヴ 2019年3月12日

(パスワードを確認。情報開示)

この世界に来てから、どれほどの時間がたったのか。
いや、計測はすぐにできる。
まったく、機械というのはこういう時の情緒に欠ける。
――向こうにいた時は、そういうものを求めていたはずなのだが。

私はこの世界本来の住人ではない。
剣と魔法、神秘に満ちた世界の出身だ。
この世界ではそれらにまた別の理由をつけるだろうが、違うものであることは間違いない。
そして私はそんな世界で、科学と物理を求めた…変人だった。

どうしてこの世界に来れたのか。
どうやって生き延び、今の役職に就いたのか。
それに関しては、この際、はぶいておく。
この独白が開示されたということは、その方法が確立したか、不思議な縁が繋がったのだろうから。

いま、私たちは星間航法の技術を隠匿するために奔走している。
実験艦である12隻、そのうち9隻は検証データの収集という役目を終えていたので、廃船扱いにするのは容易だった。
残る3隻には、データを総合し、実際に超光速航法を行うためのシステムと設備が組み込まれ、あとは実地試験を行うはずだった。

銀河帝国の一派が、停泊していたNo.10と共に■■■■太陽系を消滅させたという情報が入った時、私たちは戦慄した。
宣戦布告、そして反発した星系への容赦のない処断。
そしてその際『ワープ航法を用いて』電撃的な戦闘を行っていたこと。
No.10は巻き込まれただけだろう、というのがチームの見解だったが、安堵する者はいなかった。
相手は間違いなく、超光速航法を『武器』と認識している。
そしてきっと、そんな武器の新たな開発は許さないはずだ。

私たちは議論し、結論を下した。
やがて帝国は優位を保つため、ワープ航法を、そしてそこに繋がりかねない超光速航法の存在を徹底的に消すだろう、と。
ならば私たちは、世界がそうなってしまった時のために。
それでもなお、帝国をよしとしない者の為に。
私たちの、途上ではあるが、その魂をかけた技術を残そう。

方法としては単純だった。
それぞれの艦を廃船、あるいは破棄、座礁した、と公式情報に登録し、実際に機能を停止させ僻地に投棄する。
稚拙だとは思うが、連日の帝国の侵攻速度からはこれが一番早く確実にできるものだった。
しかし、元実験艦、という情報は書き換えなくてはならない。
適当に名付けよう、との意見にチームリーダーは反対した。
言葉には力がある。いわんや名前をや、と。

そしてふと、私の口から祈りが漏れた。
かつて、その存在を馬鹿にし、軽蔑すらしていたはずの言葉。
それが今は、こんなにも心に勇気をくれる。

私たちは船たちに『希望』の名を与えた。
そしてその船の精霊とも言える存在に、祈りを込めた。

FARO。
灯台。

『闇夜に迷える旅人の、心を支える灯り』であるように。
どうかその灯火が、未来の人々に届くように。

そして――いつか、この世界に踏み入れた、まだ見ぬ同胞の助けになるように。
私はこの独白を残す。
この世界は決して無機質ではない。
祈りは、ここでも届くのだ、と。

■■■■・■■■■(日付は文字化けしてしまっている)




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ファロ・トゥエルヴ 2019年3月13日
(このSSにはシャルロッテ・エンデ(暁のびしょうぢょ神官・f12366)様の信仰関連の設定を使わせていただきました。ここまで合致する物語に出会ったのは初めてです。ありがとうございました)
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シャルロッテ・エンデ 2019年3月15日
暁の女神様については、こ〜ゆ〜お話もあるでち(元ネタになった、背後しゃんの小説についても紹介しています)。 https://tw6.jp/club/thread?thread_id=11711
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